第15回「知って得する給排水管改修のノウハウ」

第15回「知って得する給排水管改修のノウハウ」

講師
マンションライフパートナーズ 一級建築士事務所代表取締役
NPO耐震総合安全機構 理事 柳下 雅孝氏

「給水管の漏水で断水」、「排水管が詰まり、水を流せない」など、給排水管のトラブルはマンションの居住者の日常生活に深刻な影響を与えます。また、改修が家の中の工事になるなど、マンションの居住者全体の合意が必要となる場合が多く、合意形成の難しさもかかえています。知っておきたい給排水管改修のノウハウを話していただきました。

メンテナンスの本当の目的を考える

なぜ「給水管をメンテナンスするのですか」と聞かれて、あなたはなんと答えますか。

「メンテしないと水道が使えなくなるから」、「水が漏れたら困るから」とか、「安全な水質を確保するため」とか、もしくは「給水管を長持ちさせためと」といった感じでしょうか。どれも正しいのですが、私の場合は「建物そのものを長持ちさせるため」と答えたいと思います。少しでも広い視野や、少し先の将来を考えないと、近視眼的な考え方となり、結果として本末転倒な、「もったいない」メンテナンスとなってしまうことがあると思います。

給水設備

◇給水管の定期点検

築後15年を経過するころに、一度、配管全体の老朽化具合をチェックする「劣化診断」を実施するとよいと思います。点検のポイントは給水ラインの弱点を探ることです。給水ラインの最大の弱点は、異なる金属が多く接触する水道メーター廻りです。ねじを切られたライニング鋼管が青銅製の弁類に直接的に接続されると、ライニング鋼管側の腐食が極めて早く進行し、10年足らずで漏水に至るケースもあります。その他、水栓との接続部で異種金属が接触するケース、意外な盲点としては、外面から腐食するケースもあります。

◇給水管の修繕

「修繕」・「延命」の代表的な手法の「更生工法」には、

  1. ライニング更生工法
  2. 洗浄工法
  3. カルシュウム防錆工法
  4. 電気防食工法
  5. 脱気工法等

があります。「更生工法」は、赤水や出水不良の解消のために、比較的安価に施工できる「救済的な方法」です。「改修」のようにすべてが新しい機能に回復するものでなく、あくまでも、暫定的な工事及び「配管の延命対策」として認識する必要があります。

◇給水管の改良・改修

社会のニーズや技術の進歩に合わせたグレードアップを含めた修繕工事には次ぎのような例があります。

①ステンレス鋼管に取り替える
築20年~25年を経過するころに給水管の全体更新を行うケースが多く、新しい配管は、殆どの場合「ステンレス鋼管」を使います。ステンレス管の寿命は40年程度と言われています。

②給水方式を変更する
マンションには必ずといってよいほど貯水槽が設置されていましたが、近年では水道事業者の供給性能も向上し、より衛生的な水源を確保しようという動向から、マンション内の貯水槽を無くし、直結方式に変更する改修事例が増えてきています。

排水設備

◇排水管工事における合意形成

排水管の改修で必要となる合意形成は、総会での普通決議や特別決議だけではありません。総会承認後も円滑な工事を進めるために全居住者から「入室承諾」などの協力を取り付けなければなりません。しかも、「入室承諾」が必要な住宅内工事日は工事全体の流れの中で決めていくため、各住戸の希望する工事日で実施するような融通はききません。
「管理組合」は設計段階から、「生活への影響」について十分に理事会や専門委員会を中心に検討し、総会前から全居住者に説明し、意見を聞く必要があります。そのために必要な点を上げてみました。

○工事費用の分担区分

  • 排水管の改修は住戸の中での大がかりな工事なので、まず、「排水管のどこが共用部分で、どこからが専用部分なのか」区分を整理することが大切です。費用負担の区分とも関連してきます。
  • 排水管の改修は、共用部分と専有部分が入り乱れて行われることになります。共用の立て管を取り替えるためには、管の手前にある専有部分の壁や内装を解体しなくてはなりません。そして、その内装仕様は各戸バラバラであったりします。また、共用立て管の取り替えに伴って、専有部分の排水管なども一部くっついてきてしまい、給水管、給湯管なども「道づれ的」に一時動かさなくてはならない場合も生じます。この共用部分の改修に伴う、専有部分のモロモロの「道連れ工事」の費用は誰が負担するかを検討しておかなければなりません。

○生活への悪影響をやわらげるための対策

  • 関係者全員による工事日の周知徹底
  • 鍵の貸し借りのルール化
    基本的には、住戸内工事の間は在宅してもらうのが良いと思いますが、居住者の都合で「鍵を預けるから、後はお願いします」と頼まれるケースもあります。後々トラブルが生じる可能性が高いので「預かり証」等の交わし方などルールを定めておく必要があります。
  • 排水制限
    下の階で排水立て管を取り替えている時は、上の階で下水を流すなどの事故を防ぐために、流せなくなる排水の種類(便所・台所・浴室・洗面・洗濯)、流せなくなる時間についての周知が必要です。また、「ウッカリ排水」をなくすため、「排水制限プレート」を前もって配布し、当日、全ての蛇口に自分の手で掛けてもらうといった対策も必要です。