第17回「管理組合の財産をリスクからどう守るか」 ~改正された「管理委託契約書」~

第17回「管理組合の財産をリスクからどう守るか」 ~改正された「管理委託契約書」~

講師 杉並マンション管理士会 田村晃清会長

今年5月に「マンション管理適正化法の施行規則の一部改正」が施行され、あわせて、国土交通省が出している「マンション標準管理委託契約書」が改定されました。マンションの管理組合の修繕積立金を、管理会社の社員が横領する事件などが続く中で、管理組合の財産の毀損が起こらない体制を作るため、今回の改正が行われました。セミナーでは、今後、管理組合が管理会社と取り交わす新しい「管理委託契約書」について検討してみました。

これまでの「分別管理」の問題点

管理組合から預かった財産を、管理会社は、管理会社固有の財産及び他の管理組合の財産と分別して管理しなければなりません。
これを「分別管理」といいます。従来の「分別管理」の方式には、

①収納代行方式、②支払一任代行方式、③原則方式の3つがありました。

管理費等と修繕積立金の「収納口座」は、「収納代行方式」の場合は「管理会社名義口座」に、「支払一任代行方式」の場合は管理会社が通帳・印鑑を保管する「管理組合名義口座」になります。両方とも、1ヶ月以内に管理組合が印鑑を保管する「管理組合名義」の「保管口座」に管理費の残高や積立金が振り込まれるとはいうものの、一時的に管理会社が通帳・印鑑の両方を保管するために、トラブルが発生する危険性が高かったのです。
もう一つの「原則方式」は、「収納口座」も「保管口座」も「管理組合名義の口座」で、管理組合のチェックがきくために、事故が起こりにくい方式となっていました。

改正点(1) 財産の「分別管理」の方式

「マンション標準管理委託契約書」の改定の第1は、財産の分別管理の方式を変えたことです。これまでの「収納代行方式」、「支払一任代行方式」、「原則方式」を廃止して、(イ)、(ロ)、(ハ)の3つの方式に分かれることとなりました。

(イ)方式は、「収納口座」に管理費等・修繕積立金が収納され、1ヶ月以内に修繕積立金及び管理費等の剰余金を「保管口座」(管理組合を名義人とするもの)に移し換える方式です。
「収納口座」が管理会社名義になっていたり、印鑑を管理会社が保管している場合には、「保証措置」が必要になります。

(ロ)方式は、修繕積立金については直接「保管口座」に預入されますが、管理費等については(イ)方式同様「収納口座」に収納され、1ヶ月以内に管理費等の剰余金が「保管口座」に移管される方式です。この場合も、「収納口座」が管理会社名義になっていたり、印鑑を管理会社が保管している場合には、「保証措置」が必要になります。
修繕積立金と管理費等の収納を分けて行うため「口座振替手数料」が2倍かかることになるため、この方式を使うマンションは少ないと思います。

(ハ)方式は、管理組合の口座は「収納・保管口座」1つだけという方法です。
この方式は、従来の収納代行方式及び支払一任代行方式(収納口座の通帳・印鑑とも管理会社保管)の場合は、認められません。

改正点(2) 印鑑等の管理の禁止

「収納口座」の場合は、管理会社が出納業務を行う上で、支払等で日常的に関与する頻度が高い口座のために、管理会社による印鑑等の保管を認めるが、「保管口座」は、主に積立金を保管する口座で、支払等は日常的には発生せず、口座残高も多額となる場合が多い口座のために、管理会社による印鑑等の保管は禁止されました。
また、「収納・保管口座」についても、「保管口座」と同様に、管理会社による印鑑等の保管は禁止されました。

改正点(3) 保証額の明確化

(イ)又は(ロ)方式で収納口座の通帳・印鑑とも管理会社が保管する場合は、収納口座に納入される1ヶ月分の合計額((イ)方式の場合は、修繕積立金と管理費用に充当する金銭、(ロ)方式の場合は管理費用に充当する金銭)以上の額につき有効な保証契約を締結しなければなりません。

改正点(4) マンション管理組合への情報の拡充

管理会社は、毎月、その月における管理組合の会計の収支状況に関する書面を作成し、翌月末日までに管理組合に交付することが義務化されました。

改正点(5) 長期修繕計画作成等

長期修繕計画の作成業務及びその計画案の見直し業務について、管理委託契 約書とは別個の契約とすることへ変更されました。
管理会社とは別の業者にマンションの維持または修繕を行わせる場合の管理会社が行う業務内容を明確化しました。

また、マンション管理適正化法では規制できていませんが、管理組合が実害を受けるもうひとつの側面として、管理組合内部の事件もみられます。ぜひ、法律の精神を管理組合にも当てはめ、通帳・印鑑等の分離保管の徹底と月次監査の実行をお奨めいたします。