第19回「マンション再生への潮流」 ~ふたつの老いを超えて
講師 ノンフィクション作家 山岡淳一郎氏
いま、多くのマンションが、建物の老朽化と住民の高齢化という“ふたつの老い”に悩んでいます。
「マンション再生への潮流」を、マンション問題を継続的に追い続けている山岡淳一郎氏に話して
いただきました。(杉並マンション管理士会が講演の要旨をまとめました)
「ふたつの老い」と向き合う
築30年超のマンションは、今年ついに100万戸の大台を突破しました。日本全国のマンションは580万戸と言われていますからほぼ2割を占めることとなりました。
2002年に施行された「マンション建替え円滑化法」に見られるように、古くなったマンションは新しく建替えるというのが、国の方針でした。しかし、実際に建替えられたマンションはこれまでに200件ほどしかなく、ほとんど進んでいないのが実態です。
なぜ建替えられないかというと、住民が経済的負担に耐えられないからです。特に、高齢の住民にとっては、建替えは体力的、精神的にも負担が大きすぎます。また、反対住民が裁判に訴え、判決まで長い年月がかかってしまったケースもあります。
マンションが古くなったからといって簡単には建替えられない状況があるのです。
「終の棲家」への布石
マンションを長く維持していくためには、コミュニティーが大きな鍵となります。いま、各地で様々取り組みが行われています。
- 大阪府枚方市には、網戸の張替えや電球交換などのくらし支援からスタートしたボランティアグループを中心にコミュニティーが結束し、住民主導で大規模修繕工事や電気設備大改修に取り組んでいる管理組合があります。
- 東京都江戸川区の大団地では、高齢化に対処するために、住民がNPO法人をたちあげ、介護事業を行っています。
- 住民の高齢化に悩む東京都板橋区の団地では、大学生の入居によってコミュニティーの活性化をはかっています。最近は、中国人の看護学生が入居するなど、新たな広がりをみせています。
- 東京都品川区などでは東京湾岸の超高層マンションの防災対策を住民自らが考えるネットワーク作りが進められています。
建物を長もちさせて真の再生へ
- 東京都八王子市の団地では大規模修繕にあわせて「外断熱改修」を行いました。省エネ性を高めると同時に、コンクリート躯体が長持ちすることとなり、大規模修繕の「間隔」を長くすることにもつながります。
- 新築が建築市場の2割ほどしか占めていないヨーロッパでは、ほとんどのマンションが既存建築を再生して使っていますが、改修は省エネ性と耐久性を両輪として高める工事が主流となっています。
- 日本でも、建築家、青木茂氏の「リファイン建築」のような古い建物を再利用した建築が注目されるようになってきましたし、URが東京都西東京市のひばりが丘団地などで団地の再生実験を行うなど、新しい動きがでてきています。
こうした建物を再生するという選択肢が、今までの建替え一辺倒の方向から、もう一つの選択肢として必要になってくるのではないかと、私は非常に強く感じています。