第20回「マンションの防災対策」 ~管理組合は何をすべきか~

第20回「マンションの防災対策」 ~管理組合は何をすべきか~

講師 杉並マンション管理士会会員:鈴木 有子

いつ起こるかわからない災害。
防災のために、管理組合としてできることは何か、自分たちのマンションの現状をハード、ソフトの両面からしっかり把握して、対策をたてておくことが必要です。管理組合の取り組むマンションの防災対策についてお話ししました。

首都圏直下型地震が高い確率で発生する可能性があると指摘されています。また、東海地震、東南海地震、南海地震の3つの地震が一挙に起きた場合や、短い間隔で起きた場合には、太平洋ベルト全域に被害が及ぶと見られており、地方自治体は早急に連動型地震を視野に入れた防災対策を講じる必要があるとの指摘もされています。  また、今年3月に日本建築学会は、東海・東南海・南海の三つ地震が同時発生する「三連動地震度」に伴って発生する「長周期地震動」により、三大都市圏にある超高層ビル(60メートル以上)では振れ幅2~4メートルの揺れが最大で10分程度続くとする調査結果をまとめました。長周期地震動でビルが倒壊する危険性はほとんどありませんが、構造面での重大な損壊が予想されます。

自分たちの建物を知ろう

マンションの防災対策でまず大切なのは、自分たちのマンションが被害を受けやすい建物なのか否かを知ることです。
地震で被害を受けやすいマンションとは

  1. 旧耐震基準のマンション。1978年の宮城県沖地震をきっかけに、81年に「新耐震基準」が設けられました。「震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」強さが義務付けられたのです。1981年5月31日以前の建築確認の建物は旧耐震基準で建てられているために、耐震性能を正しく把握する必要があります。
  2. 構造上のバランスが悪いマンションは、地震被害を受けやすいマンションといえます。例えば、ピロティのあるマンション、下層階に店舗や中間階に柱の少ないホールなどがあるマンション、片側が柱だけなどのバランスの偏った設計のマンション、L字型、コの字型等平面または断面の形状が不整形なマンション、建物の途中階から構造種別が違っているマンションなどです。

また、施工上の欠陥があるマンショや脆弱地盤の上に建つマンションなども、被害を受けやすいマンションといえます。

マンションの耐震診断と耐震改修

旧耐震基準で建てられたマンションは、建物、耐震性能を正しく知ることが大切です。
耐震性能はIs値で表わされますが、判定基準は0.6以上とされており、それ以下の建物については耐震補強の必要性があると判断されます。補強の方法には、フレーム架構補強などの「外部補強による方法」。ピロティなども含め開口部に鉄骨ブレースを設置する「開口部の補強方法」、柱の増打ち工法や鋼板巻き補強などの「柱の補強方法」、鉄筋コンクリート壁工法などの「壁の補強方法」があります。

大地震に備えて管理組合がすべきことは

管理組合でできる建物の防災対策は次のような事が考えられます。

①外壁チェック
壁面にひび割れはないか、浮き上がりはないか、錆水の付着はないか、あるいは、屋上パラペット、ひさし等のモルタルの状態に問題はないか、バルコニーが崩落する危険はないかなどを点検します。

②落下物の点検
外壁落下の危険はないか、モルタル、タイル、石張り等の浮き、剥落落下の危険はないか、高置水槽固定ボルトは確実に締められているか、エアコン室外機が脱落する危険はないか等を点検します。また、室内家具の固定を周知することも大切です。ことに長周期地震動の際には、家具は凶器になる可能性が大きいと言われています。

③窓ガラスの落下防止対策
飛散防止用フィルムを室内側に貼ったり、古いサッシを交換するなどの対策が必要です。

これは自分たちの建物を知るということでもありますが、被災した場合に改修又は建替えなどを検討する上で、現在の建物が「既存不適格建築物」または「法不適合建築物」になっていないかを押さえておくことが大切です。

大地震の際には、消防車は来ないものと覚悟して行動することが必要です。ですから、自分からは火を出さないようにするとともに、万一火を出した場合も、揺れが小さいうちに消すなど初期消火に万全を期さなければなりません。
更に、マンションの防災リーダー、防火管理者を中心に、防災アクションマップを作っておくことも大切です。防災担当理事(防火管理者)を中心に、指揮係、通報連絡係、消防隊、避難誘導係、救護係等を組織し、各階、棟ごとの防災担当責任者を選任するとともに、初期消火活動の要領実施訓練の時期と方法、内容、避難誘導マニュアルの作成、避難の妨げとなる障害物の排除、非常時の情報連絡方法の確保、地域コミュニティとの協力などがポイントになると思います。

また、管理組合で防災用品を備蓄する場合には、家庭では用意できない救助・救護用品を優先して備えるべきだと思います。例えば、救助用品なら、大型懐中電灯、ラジオ、ヘルメット、バール、ジャッキ、スコップ、ハンマー、ロープ、ガムテープなど、救護用品なら、救急医療品、、担架、毛布、タオルなど、その他なら、非常用発電機や電池などです。
防災倉庫は建物内外の安全な場所に設置することが大切ですし、備蓄品のチェックリストを作成し、定期的に手入れをすることも必要です。超高層マンションでは、途中階ごとに倉庫を設置するのが望ましいと思います。

「首都直下地震による東京の被害想定報告書」によると、ライフライン復旧の見通しは以下のようになっています。

マンションのライフラインが破壊された場合には、水とトイレの確保が真っ先に必要となります。
水の確保は、一義的には家庭の責任で行うべきものだと思います。1人当たり1日の水の必要量 3リットルで、最低3日分の備蓄が必要です。
また、 管理組合の中には、災害時の水を確保するために防災井戸を掘るところもあるようです。停電した場合にも手動ポンプで汲み上げることができます。水質が飲料に適さなかった場合でも、トイレの水として使うことができます。
トイレの対策としては、下水道が使用可能であれば下水のマンホールの上にトイレを設置する「マンホールトイレ」というアイディアもあります。

万一被災した場合には、管理組合の底力が必要とされます。 今から、その備えをしておくことが大切だと思います。