第22回「続発する修繕積立金不足」 ~築後30年マンションのかかえる難問~

第22回「続発する修繕積立金不足」 ~築後30年マンションのかかえる難問~

講師 杉並マンション管理士会会長 田村 晃清

築後30年を超えるマンションが全国で100万戸を超えるなど、高経年マンションが急増する中で、資金不足のために大規模修繕工事が行えず、建物や設備の老朽化に悩むマンションが少なくありません。修繕積立金不足解決のノウハウをお話ししました。

趣旨:築後30年を経過したマンションでは様々な修繕 工事が発生し、資金も必要です。
今回は「自主 管理」「管理能力の無い管理会社を抱えている マンション」にスポットを当ててみます。

1 現状の必要な改修工事は以下のようなものが考えられます。

  1. 昭和56年以前に建てられたマンションは旧耐震の設計で作られているために、耐震診断や耐震改修工事が必要となります。
  2. 大規模修繕工事は一般に12年周期で行われるので3回目ぐらいの大規模修繕工事となります。
  3. 給水管の更新工事が必要となります。専有部分の枝管から漏水する場合が多いので、共有部分だけでは済まないケースがほとんどです。
  4. 排水管の更新工事(専有部分を含む)
  5. 給湯管の更新工事(専有部分を含む)
  6. エレベーターのリニューアル
  7. 電気容量増設工事
  8. ガス埋設管更新工事
  9. 消防設備改修工事
  10. インターホン更新工事。など様々な改修工事が必要となってきます。

計画的に長期修繕計画に基づいて修繕積立金を用意していなかったり、用意していても、当初の長期修繕計画に入っていなかった、給水管、排水管、給湯管の専有部分の更新工事費用や耐震診断・耐震改修工事費用のために修繕積立金が不足するなど、資金不足の中から大規模修繕工事のプラン作りをスタートさせなければならないケースが大半です。

2 大規模修繕工事を進める順序

  1. 大規模修繕工事を進めるためにやらなくてはならない業務が多く、しかも、素人では手に負いきれないものほとんどです。総合的な視点で検討し助言できる「パートナー」が側にいない場合は、優良な管理会社又はマンション管理士との契約を結ぶのが望ましいと思います。(総会決議が必要。)
  2. 最初にやることは管理規約の見直しです。住宅金融支援機構から借り入れを受けるためには、管理規約に一定の内容が盛り込まれていることが必要です。現行管理規約が新築当時のままになっている場合などには、管理規約の改正が必要となります。(管理会社又はマンション管理士の支援が必要となります。)
  3. 会計帳簿の見直し(管理費と修繕積立金が区分して経理されていなかったり、発生主義の会計帳簿になっていない場合には、 住宅金融支援機構の融資の対象外となります。)
  4. 未収金の解決(未収金が5%以上あると、住宅金融支援機構の融資の対象外となります。)
  5. 未収金の解決のための総会を開きます。(長期滞納者に対する法的措置承認など。)
  6. 全体像をつかむために、管理会社又は設計事務所の支援のもとに長期修繕計画(案)を作成します。手持ち資金(修繕積立金)が不足する場合には一時徴収を併用しますが、工事費の20%は自己資金でまかなうのが目安です。また、借入金のために修繕積立金の改定案を作成することが必要となります。
  7. 区分所有者への説明会を開き、修繕の未実施による不具合を理解してもらうと同時に、管理規約・長期修繕計画・修繕積立金改定案を説明します。
  8. 総会を開催して、管理規約・長期修繕計画・修繕積立金改定の承認を得ます。 (住宅金融支援機構の場合に、毎月の借入金返済額は修繕積立金の80%以内であることが必要です。)
  9. 修繕積立金を大幅に改定した場合には、住宅金融支援機構から、新修繕積立金の3~6ケ月間の徴収実績を作ることが求められます。
  10. 徴収実績を作った後、住宅金融支援機構への借入金打診を行います。
  11. 住宅金融支援機構から良好な反応が得られた場合、改修工事会社の選定に入ります。
  12. 工事会社の見積説明会を実施します。(通常、見積会社を5社以上選定し、見積依頼を出した後、見積説明会出席会社を3社程度に絞り込み、区分所有者全員を対象にした見積説明会を開いて、内定会社を1社に絞り込みます。)
  13. 総会を開催し、
    ①修繕工事実施の承認:工事内容、範囲、工事会社、契約金額、工期等
    ②住宅金融支援機構からの借り入れ承認
    ③(財)マン管センターの保証契約の承認
    を受けます。住宅金融支援機構からの借り入れを受けるためには、借り入れ承認の議事録が必要ですし、(財)マン管センターの保証契約も必要となります。
  14. この段階で、正式に、住宅金融支援機構へ借入れ申し込みを行うこととなります。(借り入れの上限は、工事費の80%以下、戸当たり150万円以下です。)
  15. 工事契約は、住宅金融支援機構からの借り入れ決定通知後に行うことが大切です。
  16. 工事着工前説明会開催
  17. 着工
  18. 工事完了
  19. 住宅金融支援機構へ工事完了届
  20. 住宅金融支援機構と借入契約書締結
  21. 借入実施
  22. 工事完了金支払い