第23回「取り残された専有部分」 ~マンション給排水管改修工事の問題点~

第23回「取り残された専有部分」 ~マンション給排水管改修工事の問題点~

講師:NPOリニューアル技術開発協会副会長 木村章一

マンション専有部分の給排水管に漏水が起こると、下階の住戸に甚大な被害が生じます。
区分所有者の安心な生活を守るためには、本来、計画的な点検・改修が望まれるところですが、「区分所有権」との関係において、個人の対応に任されることが多く、老朽化により大きな不安をかかえたままのマンションが増加し続けているのが現状です。専有部分の給排水管について、管理組合としてどのように取り組むべきか、また工事の際の留意点など、現場の具体的な事例も含めてお話しいただきました。
聴講者からも沢山のご質問やご意見をいただき、熱気あるセミナーとなりました。

Ⅰ部 専有部給排水管改修工事に関する背景と提案

1.前提(マンション設備配管の一般的な位置と事故の際の対処)

  1. 共用部給水立て管は開放廊下に面して室内に影響の無い場所にあることが多い。
  2. 共用部の排水立て管は、室内に区画されたパイプスペース内にあり、漏水の際には、室内に入り専有部分の壁を壊しての工事が必要となる。
  3. 専有部の給排水管(枝管)は、室内の床下、下階の天井裏に設置されており、漏水の際には、下階の専有部分天井を剥がしての調査、自室の床を解体しての工事が必要となる。

2.専有部給排水管の取扱い ~なぜ、専有部分は取り残されたのか~

<マンション標準管理規約より>

◆第7条(専有部分の範囲)
対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次の通りとする。
一天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
二玄関扉は、鍵及び内部塗装部分を専有部分とする。
三窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。

◆第21条(敷地及び共用部分等の管理)
敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなくてはならない。
2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。
※2項には、「その責任と負担」の文言がない。

★上記の記載が根拠となって、多くのマンションの長期修繕計画には、専有部分の改修まで見込まれておらず、仮にそれを見込んだ場合、積立金が現状の3倍になってしまう場合もある。
★しかし、実際に漏水が起こった場合、被害が甚大なのは、専有部分についてである。

3.近年の三つの考え方と提案

  1. 専有部分配管は、専有部なので各区分所有者がそれぞれ工事を行う。
  2. 管理組合として一斉に工事を行うように企画するが、費用については各区分所有者が負担する。
  3. 共用部分と一体の設備として管理組合が費用負担の上、実施する。

どの考え方を取るべきか‥

  • 共用部と同じ管材で同じ経年、劣化診断の結果も同様である専有部配管のみが放置される状況は好ましくない。
  • 資金が無いことを理由に工事を拒否されたら、下階の居住者は常に漏水の不安の中で生活しなければならない。
  • さまざまな理由により、居住者本人が借り入れできないケースもあり、管理組合が借り入れして毎月の修繕積立金から返済してもらうなど、方策も必要。
  • 各戸がそれぞれに工事を行うと工事費が割高になる。施工品質にもばらつきが生じて、結果マンション全体の価値が守れなくなる。

★上記のような理由から、3.共用部分と一体として管理組合が費用負担の上、実施する 考え方を推奨。 合意形成の困難さから、容易に施工できる共用部給水管改修だけが行われる現状では、マンション 全体の価値は守られず、規約改正等を含んだ、管理組合としての取組が必要。

4.専有部給排水管改修工事を管理組合主導で行う際のステップと規約改正の提案

①いくらかかるのか?→専有部給排水管改修工事費用の算出
・管理会社が予算を算出しない場合、専門工事会社等に依頼することになるが、工事会社と管理組合の関係の透明性について留意する。

②将来は大丈夫なのか?→長期修繕計画上でのシミュレーション
・将来、修繕積立金が不足しないか、値上げの必要があるか等を明確にする。場合によっては、ローンについても検討しておく。

③ どうして管理組合でやるのか?→管理組合主導で実施することの事前承認を得る
・その必要性について事前に説明。場合によっては専門工事会社等からの説明も必要。この場合も、関係の透明性について留意。

④総会準備→現行管理規約の確認
・マンション標準管理規約を参考に、規約の変更(特別決議必要)を行う。
<変更案>21条(敷地及び共用部分等の管理)
第3項以降の文案(提案)
3専有部分の給排水管・給湯管・排水管又はガス管の更新工事を含む管理は、区分所有者がその責任と負担において行うものとする。
4専有部分の給水管・給湯管・排水管又はガス管の更新工事を行った区分所有者は、その旨を管理組合に届け出るものとする。
5管理組合は、一定の時期に、専有部分の給水管・給湯管・排水管又はガス管の更新工事について、総会の決議を経て管理組合がその責任と負担においてこれを行うことができるものとする。
6前項において、管理組合が行う更新工事をすでに実施した区分所有者に対し、公平の観点から応分の工事費を理事会決議により返金することができるものとする。

注:専有部の個人財産改修について修繕積立金から支出することが管理規約の改正によって認められるか否かについては異論もあり、現状それにあたる判例はまだ出ていません。費用負担について、
1あくまで戸別負担を原則とし、すぐに払えない人には管理組合を通して貸付を行う
2事前に修繕積立金を各区分所有者に戻し(面積割合)、そこから払ってもらう‥等々、
工夫と、慎重な対応も必要かと思われます。

Ⅱ部 専有部給排水管改修工事の実際

1.工事の難しさ

①居住者のいる中での工事

②工程管理に居住者都合の考慮が必要
・共稼ぎ家庭の増加(1ヶ月前からの案内・変更不可)
・高齢居住者の増加(一時引っ越し・仮設トイレ)

③現場(各室内)を実際に見るまでは計画が立たない
・竣工図面と異なる各戸毎のリフォーム履歴

●工事計画前に全室専有部入室調査が必要。その段階から居住者の100%の同意、協力は不可欠。

2.工事における現場での留意点・工夫(事例紹介)

①工事期間の仮設トイレ等の確保(シャワー洗浄式トイレの設置など)
②床・壁や家具、洗濯機などを傷つけない、また埃が散らばらない完璧な養生の実施
③ベランダからの工具・部材落下の防止策
④工事中の排水禁止を徹底して広報する配慮
⑤工事中・運搬中の細かな工具・部材散逸の防止策
⑥共通フォーマットのチェック表を利用したWチェック体制
⑦現状復旧に際しての仕上げ材サンプル(セレクト)の明示
⑧工事工程等を広報する整理された掲示版の設置
⑨掃除機を使いながら等、埃を立てない施工方法の工夫
⑩床・壁の破壊を最小限にとどめ、点検口を作る等施工上の工夫
⑪多能工による効率的、横断的施工でコストを低減
⑫最新技術を利用し、躯体のハツリや振動を最小限に留め、工事品質を確保する施工の工夫
・躯体をハツらず油圧装置で管を抜く
・抜かずに管を更生する
・抜かずにその内部に新規の管を通す
・職人の技量に頼らない新規技術、商品の活用

3.戸別リフォームによる問題施工の実態(事例紹介)

①便器の位置変更に伴い汚水管を無理やり共用立て管に接続、元の穴をパテで押さえただけの施工。
②上流側の共用排水管に下流側から細い排水管を差し込み、パテで押さえただけの施工。
③給水管内部に塗布する更生工事も施工精度によりはがれや赤水の被害。

★生活向上の為のリフォーム工事が、設備配管漏水や機能障害などの重大事故の原因となる可能性。区分所有者各戸任せにせず、管理組合の管理化で適正な施工を指導・監督する必要がある。

4.専有部給排水管工事の現場代理人に求められるスキル

①問題点を解決する瞬間的な判断力→竣工図面(配管経路等)は現場では頼りにならない
②設備に対する知識に加え、建築・内装全般にわたる知識→適正な施工とアドバイス
③マンション管理に関する知識→権利関係、合意形成過程への理解
④コスト計算力→管理組合、区分所有者の想定外の支出を抑えるアドバイス
⑤コミュニケーション能力→意向を正く把握し、適切な説明により理解を得る能力


杉並区都市整備部 森山住宅課長

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